心血管病を予防するためには? −セルフメディケーションのすすめー
私は循環器内科の臨床医なので、日々外来で患者さんの診断治療に携わっています。医学は臨床医学と基礎医学間のクロストークが重要です。臨床医学から生まれた疑問点を基礎医学で解明し、基礎医学で得られたエビデンスをいかに臨床に応用するか、互いのクロストークが極めて重要です。本日の講演内容ですが、臨床から見た視点、最後ではN21を用いた基礎的なデータを含めて、先生方のご意見、ご批判をいただきたいと思います。
本日、心血管病をいかに予防、治療するかから、普段は処方箋を要する薬剤を中心にさらには、カテーテル治療や心臓のバイパス手術など外科的な治療も含めた治療戦略が注目されていますが、忘れがちな運動療法、リハビリテーション、栄養管理といったセルフメディケーションの重要性を中心に話しを進めます。
始めに、我が国の疾病構造の背景をおさらいします。先ほどから、N21の主要効果は発表されていますが、日本人のナンバー1キラーは悪性新生物ガンです。悪性新生物は頭のてっぺんから足のつま先のすべての臓器で発生します。単一臓器が原因の死因のナンバー1は心臓病です。その次が脳血管疾患です。心血管疾患・脳血管疾患を合わせると28%、つまり、単一臓器のナンバー1キラーは悪性新生物の31%に迫ります。
悪性新生物の死因における位置づけは、死亡率も増えますが、心疾患ではナンバー2、こちらもじょじょに増えています。3番目の脳血管疾患はこの統計から見ると、ほぼ横ばいです。これは実際には亡くなる方の統計です。したがって、発症する患者さんはある統計によると、2040年まで着実に増えてきます。
脳血管疾患は最も介護と多額の医療費を要する疾患ですので、ナンバー2の心疾患、ナンバー3の脳血管疾患これらの原因となる動脈硬化をいかに予防し治療するかが、重要です。最近、新聞でも動脈硬化疾患に関する疫学的データはたくさん発表されています。つい最近でも、心筋梗塞は都市部に増えていると発表されています。
なぜ増えているのか。その背景を理解する必要があります。
1つは少子高齢化です。日本に限らず欧米でも着実に高齢化が進んでいます。その中で最も急速に高齢化しているのが我が国です。2005年の統計では65歳以上は人口の21%、2025年には約30%になります。このことはさまざまな疾病の構造を確実に変化させます。
2つ目は急速な肥満化です。BMIは体重を身長で2回割った値です。25以上を日本人は肥満者といいます。私は24.5から25を常時行ったり来たりしています。イメージとしては私が相当します。
これは厚生労働省の国民栄養調査からまとめてきました。左が男性、右が女性です。1982年の20歳から70歳における25以上の肥満者の割合、これは各層に渡ってこのような数値でした。82年の10年後、1992年、男性はすべての年齢層で肥満者が増えています。さらに、その10年後、2002年にはすべての年齢層でさらに肥満者が増えています。
一方、女性のトレンドはどうでしょう。こちら82年。女性は特に閉経後、体重が増える傾向があります。エストロジェンをはじめとしたホルモンのバランスの変化が原因といわれていますが。こちらは男性とは違ったトレンドを示しています。82年の10年後、1992年の黄色のグラフですが、50歳代までは男性と全く逆のベクトルで、肥満者は減っています。さらにその10年後、2002年もさらに減っています。
しかしながら、50歳代以降のトレンド、すなわち、悪性新生物や心血管疾患が増える50歳以降は男性とまったく同じトレンドです。そこで、1つの示唆に富む事例を示します。沖縄です。以前から長寿の県で有名でした。1990年頃までは、男女とも平均寿命が最長でした。それが95年には全国4位、00年には男性は26位に落ちました。その原因はBMI25以上の肥満者の増加です。若者中心に食生活の欧米化が最も進んだのが、沖縄だったからです。全国平均と比較すると脂肪摂取量が多く、魚の摂取量が減少してきている。これらの食習慣を中心とする生活習慣の激変が大きな理由です。
そこで、話題のメタボリックシンドロームです。男性85センチ以上、女性90センチ以上が基準ですが、今後、この基準は変わってくるでしょう。内臓肥満があり、中性脂肪、善玉のHDLコレステロール、血圧、血糖値がちょっと高い。それらを組み合わせた数値が多いほどメタボリックシンドロームです。
現状は男性に顕著です。上段の40歳以降の働き盛りの男性の赤いグラフ(メタボリックシンドロームの診断基準に合致した人の割合)と緑のグラフ(その項目が1つ不足している人)を見ればわかるのですが、40歳以降になると、2人に1人はメタボかメタボ予備軍です。
動脈硬化、またが動脈硬化を起こしやすい病態にどんな疾患があるか。代表は肥満者、食生活のかなり偏った方に起こりやすい狭心症、心筋梗塞です。温度差の激しい環境下で体を動かし始めた後、特に動作時に起こります。症状は心臓がある左胸が締め付けられるように痛い。石を載せられたような圧迫感があります。患者さんによっては左手のだるさや、喉が詰まる感じ、奥歯が浮く感じもあります。これらの症状がある場合は、狭心症、動脈硬化性疾患を考える必要があります。
動脈硬化はさまざまな原因が複合しています。動脈硬化になりやすい体質、糖尿病、高血圧、ストレス、総コレステロールが高い、運動不足、食生活の偏り、喫煙が、血管に脂質の沈着をきたして血管を狭窄させ、動脈硬化を発症します。
心臓の周囲にある冠状動脈が一番動脈硬化を発症しやすく、心臓の左右を走るそれぞれ左右冠状動脈と、左側には左冠状動脈とその左前を下降する前下行枝、回旋枝の3本の大きな血管があります。心臓は1日に8から12万回動きます。拍出される血液量は1日に6から7トンです。すべての血管を流れ戻ってきますが、毛細血管も含めると血管の長さは10万キロです。地球1周が4万キロです。これだけの仕事をする血管は生体の重要な位置にあります。
冠状動脈がある日突然、血栓によって閉塞するのが心筋梗塞です。血液が途絶すると心臓はストップします。壊死になります。動脈硬化のメカニズムはここ10年間にパラダイムシフトしました。私の研修時代は、心臓の細い血管がある日突然詰まり、胸が苦しくなり心筋梗塞を発症すると教わりました。その後、臨床・基礎研究により、血管空が比較的保たれている血管に発症するのが、全体の約3分の2だとわかりました。
この写真は、心筋梗塞患者さんの冠状動脈の切片です。血管の内空は維持されています。カテーテル検査すると狭窄度は25から50%と、狭い血管ではありません。疾患の原因は脂成分が多いことです。脂質の皮膜が薄いことです。局所、全身の炎症、プラークが、動脈硬化の突然の破裂に関係しています。カテーテル検査すると、このようにあちこちに動脈硬化によって狭くなった箇所が見られます。このよう細い場所に発症するのではありません。
冠状動脈の中を覗きましょう。太さは約3から4ミリです。カテーテル検査では血管中に超音波を挿入し、状況を把握します。この患者さんの右冠状動脈には糸のような血管はありませんが、反対側に心筋梗塞があります。白の三日月部分、ビング部分がすべて動脈硬化です。つまり、心筋梗塞は反対側の血管や全身の血管に動脈硬化が存在することを念頭において、治療や予防しなければなりません。
どう予防するのか。急性期、救急室に搬入された患者さんにはカテーテル治療は重要です。しかし、動脈硬化はすべての動脈に発生しているので、全身的に治療や予防することが大事です。血圧にはいろんな降圧剤を、脂質異常にはスタチンやプロブコール、EPAなどの薬剤、糖尿病には経口薬インスリン、血小板の凝集性にはアスピリンなどの薬剤を使い、局所治療でバイパス治療もします。しかし、忘れてならないのは、食事指導、リハビリテーションなどの運動、つまり、セルフメディケーションの重要性です。
これは48歳のメタボの男性患者さんです。順天堂大にはスポーツクリニックがあります。栄養指導や運動療法が盛んです。左側臍のCT断層写真のように、皮下脂肪が非常に蓄積されています。しかし、まったく薬を使わず6カ月間のきちんとした栄養指導や運動療法によって、別人のように再生しました。しかし、チャンピオンデータで、実際はここまでは難しいです。でもここまで頑張れば、血圧は146、82が正常化し、コレステロール225から164、中性脂肪も370から83、HDLコレステロールも40から61まで上昇します。ブドウ糖の付加試験では、血糖応答が改善しインスリンも少なくなります。
1年半前に、当時の厚生労働省の副大臣2人がダイエットに挑戦する様子が半年間、ホームページで紹介されました。その直後、イギリスの有名雑誌でも取り上げられ、時節に合致していました。肥満者の公式発表では03年です。結果は、武見さんはウエストサイズが6・9センチ、体重が7・5キロ減りました。石田さんは2・3センチ、8キロの減でした。
そのセルフメディケーションです。臨床医学での動脈硬化、パラメーターはいくつかありますが、検証には労力を要します。臨床医学の見地からデータを発信する必要がありますが、基礎医学、今回は動物を使いましたが、私の研究室ではマウスで研究しました。蛋白に欠損したマウスで、食事を与えるマウスと高脂肪の食事のマウスを比較すると、高脂肪のマウスに動脈硬化が惹起されます。運動、セルフメディケーション、特にN21の重要性を示しました。
運動には、強制と自発運動があります。ジムは強制運動に入ります。今後、我々が訴えるべきは、身体活動の低下の予防をいかにするか。日常生活ではついエスカレーターに乗ってしまいます。テレビは今ではリモコンです。手紙はポストまで持っていきましたが、今はEメールです。身体活動の低下の予防が重要だと私どもは考えています。
マウスの飼育はホイールゲージを使い、好きなときに運動できます。マウスも我々も体を動かすのが好きな動物です。それができない環境では、同じく高脂肪の食事を与えても、モデルマウスに強い動脈硬化が発症しました。
10週間、N21を投与しました。抗動脈硬化作用があり、LDLコレステロールを優位に低下させました。細かいサイトカインや酸化ストレス、コレステロール低下のメカニズムの検討は今後必要だと思います。
まとめです。我が国の動脈硬化性疾患は着々と増え、その原因は高齢化、肥満者の増加です。予防の基本は運動と食生活改善のセルフメディケーションです。最後には、N21の期待かと思います。動物実験には長岡先生、健康スポーツ科学部、循環器研究室の教授、院生の力を借りて日々臨床・研究を行っています。最後に、N21を提供された株式会社フィスの皆様に深くお礼を述べます。
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