新規複合微生物(L.Kefiri P-IF)含むN21の特性に関する報告
特許申請、菌株の寄託も終りましたので、この部分も含めてお話しします。
新規複合微生物の中で「L.Kefiri
P-IF(ラクトバチリスのケフィリP-IF)」が、我々が寄託した菌名です。これを含む複合微生物の生成物N21と菌の特性について報告します。
研究の目的です。N21を生成する新規微生物群の中に、ラクトバチルスKefiriで、新種の菌株として性質が異なるP-IFを見つけました。それを含む新規複合微生物の生成物質であるN21の特性を、我々の健康生活に役立てるにはどうすればいいかということで、研究を進めています。
始めに、L.Kefiriの特異性を話します。N21を産生する菌の1つのL.KefiriをDNAレベルで相同性を確認して、L.Kefiriの菌株であることを確認しました。菌株には基本的な性状を確認する際に使う糖類発酵性試験があります。どんな糖を利用してエネルギー源に変えるのか、ということで種類を分けていきます。このL.Kefiriの菌の標準菌株、これがKefiriだといわれている菌株と比較して、ガラクトースという糖の発酵がN21の菌核にあります。標準菌株にはありません。それを中心に新菌株として寄託しました。
この菌株の表面構造に特殊なものの存在を推測できる実験データが、多々上がってきます。この菌核が呼吸する際、二酸化炭素を排出しますが、普通、菌株を培養して二酸化炭素を吐き出すと、水中に入れた管に炭酸ガスが溜まります。でも、この菌核はそのガスの発生が見られません。ガス発生のない菌株に見えてしまうのです。
しかし、試験管を軽く振るような簡単な衝撃を加えると、シャンパンのように中から泡が出てきます。細胞の表面にその泡を引き付けておく溝のようなもの、もしくは毛のようなものの存在が示唆されます。例えばお風呂に入って表面の体毛に泡がついて、それが水面に上がってきませんが、体を少し揺らすと上がってくる、その状況と全く同じです。表面にこのような特徴があるということです。
また、菌体は遠心分離で集めますが普通の菌を遠心分離で集めると、菌特有の色はなくてほとんどが白です。この菌株を遠心分離すると茶色い菌株が取れます。培地の中には茶色の成分が入っていますが、遠心分離後は培地が薄くなっています。培地の色素までも菌体が引っ張って表面に引き付け一緒に落っことしてしまう。というこの菌独特の表面構造の特徴が見られます。標準菌株と異なる新菌株であろうと判断して寄託し、番号を取りました。
電子顕微鏡のこの写真がこの菌株です。表面に大きな凹凸がいっぱいあります。私の考えですが、菌の表面に培地の成分やその他が付着したからだと思います。基本的に菌はこのレベルでもスムースな状態が普通です。これをL.Kefiriの新菌株として、「P-IF」と我々がつけました。
これらの特徴を生かすとどんな可能性があるのか。
まず細胞壁に特徴があります。これは糖鎖や結合する物質とか、特殊な窪みかもしれません。高次構造の可能性があるので、たとえば、菌が腸管に入った場合、腸壁に付着して腸内に定着する可能性が考えられます。
また、菌が他の悪い菌に付着することで直接的に攻撃する、もしくは一緒に対外に排出する。細胞壁だけでもさまざまなことが考えられます。つまり、菌体が生きたまま届かなくても、細胞壁の粉末さえN21の生成物に入っていれば、特長を生かしていろいろなところに作用する可能性が、非常に強いのです。
長岡先生も話されたように、この菌はpHに対する耐性が強い菌です。自分の酸で胃酸の酸域までpHを下げます。つまり、他の菌では生存不可の酸まで、自分の力で生成します。この菌を生きたまま飲んで、胃の酸を通過して腸管に達する可能性は大きいと思います。
3つ目は、ヘテロ発酵を行うので、糖分の分解時に独特の有機酸を生成する可能性があることです。ただ、既存か新種なのか、どんな働きをするのかということはわかりません。良い働きをする有機酸を生成する可能性は持っています。
最終的に、N21を構成する菌株を調べました。菌株「P-IF」を乳酸菌のトップにつけましたが、N21を生成する微生物群を培養して最終段階に達すると、98%がP-IFに安定します。それ以外でもスタート時にあった菌株として、標準菌のL.Kefiri、酵母3種類、つまり、乳酸菌2種と酵母3種が主要な構成菌株だとわかりました。これもDNAの相同性で確認した結果です。
複合菌の発酵生成物のN21は何なのか。微生物部分で確認すると、乳酸桿菌が2種、酵母3種の複合発酵物です。この複合発酵で生成されるさまざまな有機酸、構成菌体自体の効果で我々の健康生活に有効な働きが期待されるものであると思います。
特許申請において最初に申請したものを話します。
まず有機酸を中心とする抗菌性物質について考えてみました。この菌株はヘテロ発酵を行うので、有機酸を生成します。その有機酸の抗菌作用について試験を行いました。まず抗菌性物質の抽出法ですが、乳酸菌由来の抗菌物質法の1つに、フェニル乳酸があると考えられています。この抽出時に、有機溶剤であるブタノールを使います。今回はブタノールで抽出される有機酸がフェニル乳酸か否かはこの時点でわかりませんが、ブタノールで抽出物の抗菌作用について試験しました。
試験対象はN21および市販ケフィアの発酵液、市販ヨーグルト、市販植物性乳酸菌の発酵液に、リン酸緩衝液の5種類、発酵物N21はそのままです。それぞれの乳酸菌やその複合物の発酵液を、ブタノールで抽出しました。菌体は完全に除去されています。抽出物の対象はその菌体が出した有機酸です。それに対し、人糞便由来の微生物を培養し、培地に撒きます。生育すると一面真っ白になる状態で、濃度調節します。そこで抗菌作用を観察、実験しました。
ブタノールによる抽出物を小さな円い紙に浸し、微生物がいるシャーレーに載せます。微生物の発育とともに培地は白濁します。その中で、抽出液が抗菌作用する部分は菌が繁殖せずに、クリアなサークルができることで判断しました。
その結果がこの写真です。1、2番が市販ケフィアで、クリアなサークルはなし。市販ヨーグルトも同じです。N21の4と5番の違いは、抽出物の量です。市販ケフィアも同じ量です。ケフィア1番とN21、4番は抽出液を25マイクロ浸しました。2と5番は2倍の50マイクロです。クリアなサークルは5番が大きいことが確認できました。量が多いほうが効いているのです。植物性乳酸菌と対象のリン酸緩衝液もクリアサークルは形成されませんでした。
市販ケフィアやヨーグルト、植物性乳酸菌に抗菌作用がないわけではないと考えます。ブタノールで抽出される有機酸は、他よりもはるかにN21抽出物の抗菌作用が強いという結果だと思います。
この結果から、N21のブタノール抽出物には、強い抗菌作用があるということがいえます。決して生きている菌を殺す殺菌作用ではありません。相手の侵略を抑える作用です。クリアなラインはそこで侵攻を止めていると解釈してください。
腸管内で同じ事が起きると、どうなるのか。今回試験に用いた菌は糞便とともに体外に排出された腸管内の微生物なので、腸管に存在しなくてもいいかもしれない菌体には、抗菌作用を持つ物質が入っている。つまり、N21はその有機酸を含んでいるので、直接服用することで、有機酸が腸内の菌叢を改善して、便通改善の効果が期待される可能性が高いと思います。
N21を直接服用するなら、その構成菌株の1つである菌株P-IFは酸生成が強く、自身に酸耐性があります。胃酸を通過して腸管に達すればその細胞表面構造で腸管に吸着し、その場で有機酸を体外排出して、不要な菌の繁殖を防ぐ作用があると考えられます。
では、P-IFとN21を今後、どう活かしていくかです。N21は L.Kefiri P-IFと他の乳酸菌1種、酵母3種の発酵物ですが、L.Kefiri
P-IF単独で得られる効果を調べます。複合菌株よりも単独の菌株のほうが扱い易いからです。pH耐性を再度調べ、胃酸の通過性、吸着性ある菌体膜構造、特長のある酵素などを調べます。
酵素についてですが茶色をしたN21の液体は冷蔵庫の中で色が濃くなってきます。菌体が入っていないので、菌が原因ではありません。菌が壊れたときに出てくる菌体内酵素の一部が低温でも活性化し作用する可能性捨て切れません。菌体内酵素も興味深い対象です。
これらを丹念に調べて、我々の体内の生理活性化効果をどう上げていくかなど、期待するところです。
N21の生成物については有機酸全体で見ており、ブタノール抽出の有機酸成分がフェニュール乳酸なのか、既存のものなのか、新種なのか、単独での抽出、特定をしていきます。
構成菌株の特性を生かした製造方法についても考えていきます。菌の構成要素を聞くと、ケフィアと考えられます。ケフィアはぼこぼこしたヨーグルトのケフィア粒を思い出すかと思いますが、N21を構成する乳酸菌とこの酵母ではケフィア粒は出てきません。必要以上に酸が高くなり、ヨーグルトが固まる酸度以上に低くなり固まりません。そのままつくれば菌体は生きたまま液状のヨーグルトタイプとして摂取し、胃酸を通過して腸に達することでさまざまなことをしてくれるかもしれません。このように菌核の特性を生かした商品づくりにも関わっていけると思います。
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